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糾縄の血 本篇

​第一章 牙無きオオカミ

≪ 登 場 人 物

 

配 役【♂2:♀2】

​▦  里見 京介 / サトミ キョウスケ ♂

摩第二高等学校在学中、日々喧嘩と暴力沙汰に明け暮れ、群れを成さずたった独りで集団を腕っ節だけで圧倒し、蘇摩町にその悪名を轟かせたチンピラ界隈では伝説となっている通称 "二高の狼"。

​自主退学後、路頭に迷った挙句、麗香の居る高級クラブ「CLUB en rêve」で "黒服”として勤務している。

▦ 葛城 秀典 / カツラギ ヒデノリ ♂

高級クラブ「CLUB en rêve」の常連客。飄々としており、酒と女には目が無い性格。

その実態は、関東最大の歓楽街・蘇摩町を裏で牛耳る広域指定暴力団「龍仁會」系葛城組の組長。極道者。

​麗香とは昔からの顔馴染みであり、"二高の狼"の噂を耳にし、今日もまたCLUB en rêve」の戸を叩く。

▦   麗 香 / レイカ ♀

高級クラブ「CLUB en rêve」のママ。白の和服に袖を通し、物腰の柔らかさが際立つ上品な女性。

年齢と見た目が反比例している、蘇摩町の男たちを幾度となく虜にしてきた、「高嶺の花」。

葛城と接点のあった過去の人間と、なにやら所縁がある様子だが・・・

▦   清 華 / サヤカ ♀

高級クラブ「CLUB en rêve」のNo.2。俗に言う「チーママ(小さいママ)」。

店内では身内・顧客問わずお姉さん的立ち位置として知られる、面倒見の良い女性。

​お酒が入ると、少し熱い面を覗かせる事も。

   この作品はフィクションです。

実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

- CLUB en rêve  (アン・レーヴ)-

 

葛城 「ご無沙汰してます。…麗香さん。相変わらずお綺麗なままで、お変わりありませんか」

麗香「あら。まぁ、貴方……葛城さん?すっかり顔を出さなくなるんですもの、一瞬誰かと思ったわ」

葛城 「はははっ、いえね……アレから、ちょっとばかしバタバタしてしまいまして」

麗香 「……そう、ね。ちょうど良い席があいていて良かったわ、どうぞ」

葛城「いやいや、VIP席ですか?久々に来て、サービス料倍払わなきゃならんじゃないですか」

麗香 「あら、久々なんだからその位良いでしょう?」

葛城 「……(溜息)。あんな事があって、俺達も姐さ、…いえ、麗香さんの事まで目を掛けてやれなかったでしょう?しかも、建て直しにこんなに時間が掛かっちまって…此処にまだ居るか、半信半疑だったんですよ。実は」

麗香 「あの人の傍に居ると決めた日から覚悟はしていた事よ。それが、ある日突然訪れただけなの、貴方が気に病むことはないわ」

葛城 「相変わらず、強いお人だ」

麗香 「強くなろうとしたのよ、あの人の傍に居る為に。…そして、この世界で生きて行くために、ね」

葛城 「俺からしたらあの頃のまま、強く綺麗な麗香さんですよ」

麗香 「んま、お上手。これでももう四十は過ぎたって言うのに」

葛城 「あ~いやいや!見えませんって!さすがは親父が見込んだ御方、眩しすぎて眩暈がして来たなぁ」

麗香「あら、もう酔ってるの?」

葛城「…本心ですよ?」

麗香「はいはい、貴方は昔っからそう。その口の上手さで今は何をしてるのやら」

葛城「はぁ。つれないなぁ、どうも。…あぁ、今はですね、(名刺を差し出す)こういう肩書きでして」

麗香「葛城組……、組長…?偉くなったのね」

葛城「偉くもなんとも無いですよ。親父が死んで、ウチは実質解体したようなもんでしたから。…そこから、会長のお力添えもあって、

組として居場所を作るチャンスを貰ったってだけです」

麗香 「それでも、よかったわ。…あの人の意志を貴方が継いでくれて」

葛城 「そりゃあ親の背中を見てきた分、なし崩しに足抜けは格好悪いじゃあないですか。親父に合わせる顔がなくなっちまいますよ」

麗香 「貴方らしいわね、きっとあの人も喜んでいるでしょうね」

葛城 「親父の事だ。日本酒片手にまだまだ甘ぇな、って笑ってますよ」

​​麗香「違いないわね、ふふふ」

葛城 「そういえば麗香さん、話は変わりまして、"二高の狼"の話。…聞いた事有りますか」

麗香 「二高……、蘇摩(そうま)第二の事よね?」

葛城 「えぇ、いやぁ、うちの若いのがそう呼ばれてた奴が、この辺で稼いでるのを見た、とか言ってまして。この辺りじゃちぃっとばかし、名の知れた悪ガキだったそうなんですが」

麗香 「さぁ、……どうかしら」

里見 「お話中失礼致します、麗香さん…速見さんがいらっしゃってます」

麗香 「速見さん?…あらあら、本当だわ。葛城さん、ちょっとごめんなさい」

葛城 「あぁ、いえいえ自分のことはお気になさらず。……あれ、速見 正隆(はやみ まさたか)ですか、県議会議員の」

麗香 「そう、昔からご贔屓にしてくれてるのよ。ほら、あの人と同じで私が居ないとちょっと拗ねちゃうのよ」

葛城 「あっはははは、親父も拗ねることがあったんですね。あぁ、大丈夫ですから行ってあげてください」

麗香 「ごめんなさいね。戻るまで…清華ちゃん、お願いできる?」

清華 「はい、宜しくお願いします」

麗香 「うちのチーママ、清華ちゃん。此方は葛城さん。じゃあちょっと行ってくるわね」

葛城 「いやぁ、一晩でこの店のツートップに相手してもらえるなんて、俺ってば、果報者だね~こりゃ…」

麗香 「もう、またそうやって……速見さん、いらっしゃいませ」

葛城 「相変わらず人気ですねぇ、麗香ママは」

清華 「そうですね。あの、葛城さんは…ママとは昔から?」

葛城 「えぇ、昔の上司が麗香ママを偉く気に入ってましてね。もう10年以上前になるかなぁ、 よく連れてきてもらってたんですよ」

清華 「じゃあ、このお店のことは私よりもよく知ってらっしゃるのね」

葛城 「清華さんは、いつから?」

清華 「私は、今で6年目になります」

葛城 「ははぁ、来ていない間にこんなに綺麗な人が居たなんて、惜しいことをしたなぁ」

清華 「あら、嬉しい」

葛城 「麗香ママとはまた違う魅力的な人ですよ、本当に」

清華 「ふふ、葛城さんってば。…そういえば先程蘇摩(そうま)第二高校のお話していらっしゃいましたけど…」

葛城 「おや?聞こえていましたか?」

清華 「母校なもので、つい。…お知り合いがいらっしゃるんですか?」

葛城 「知り合い、というかちょっとね。人探しといいますか」

清華 「蘇摩(そうま)出身なら、うちのボーイにも一人居るんですよ」

葛城 「ほう?…若いんですか」

清華 「えぇ、成人前の子では珍しく働き者のいい子で。……あ、あの子です、(手を挙げて少し遠くの里見に声を掛ける)里見くん」

里見 「…失礼します、清華さん、何か?」

葛城 「……ほぉう?」

清華 「氷、新しく持ってきて貰えるかしら?あと、何か軽いものを」

里見 「わかりました、少々お待ちください」

葛城 「おい待て。お前さんが例の、『狼少年』か」

清華 「………?」

里見 「…な、何のことでしょうか、お客様」

葛城 「いーや?…あぁ、すまねぇな、急に」

里見 「いえ、それでは失礼致します」

清華 「葛城さん?狼って?」

葛城 「ウチの若いのが二高出身で面白い奴が居たって話をしてましてね。そいつの異名が『二高の狼』って言うそうなんですよ」

清華 「まぁ、それが……里見くんだってこと、ですか?」

葛城 「あ~いやいや、実の所は分かりませんが、多分……そうじゃないかって、睨んでまして」

麗香 「清華ちゃん、速見先生のところお願いできるかしら」

葛城 「あぁ、麗香さん。ようやくご帰還ですか、待ってましたよ〜」

麗香 「うちの清華ちゃん、口説いたりしてなかったでしょうね、葛城さん?」

清華 「ママってば、私が来るとそればっかりなんだから」

葛城 「はっはっは、麗香さんは昔から俺に信用がないんですよ、だぁいじょうぶ。俺は麗香さん以外口説きませんって」

清華 「あら、ですってよママ」

麗香 「はいはい」

清華 「じゃあ、葛城さん。ごゆっくり」

葛城 「はいはい、また。……いや~、いい子ですねぇ、彼女」

麗香 「でしょう?口説いちゃダ・メ・よ?」

葛城 「はぁ~ですから俺はママ一筋ですよってば」

麗香 「うふふ、それあの人の前で言えるかしら?」

葛城 「っははは!親父の墓前で言おうものなら、あの世から恨まれますよ。…あぁ、そうだ麗香さん。あの里見ってボーイはいつから?」

麗香 「里見くん?…たしか、1年ちょっとよ。高校を辞めて、アルバイトを探しているって言って来てくれたのよ。彼がどうかしたの?」

葛城 「いえね、さっき言った二高の狼、ひょっとしたらアイツなんじゃないかって思ってまして」

麗香 「あ~、相当な悪ガキ、だったらしいわよね?その子。……でも、彼はそんな風には見えないけれど。確かに身体付きはがっしりしているし、ここに来たばかりの頃は少しやんちゃそうな雰囲気もあったけれど…」

葛城 「いや…あいつは他の奴には無いような、"面白い目"をしてますよ」

麗香 「どうしてそう思ったの?」

葛城 「…麗香さん、親父が生きてたらあいつを見て俺と同じ事を言った。そう、思いませんか」

麗香 「……、そうかもしれないわね。確かに、あの人が好きそうな子だもの」

葛城 「でしょう?きっと向こうで”おもしれぇ奴見つけたじゃねぇの”って、膝叩いて笑ってますよ」

麗香 「ふふふ……違いないわ」

――閉店後――

里見『あの客……なんなんだ…なんで俺の事……』

麗香 「里見くん」

里見 「お疲れ様です」

麗香 「明日早い時間から御予約のお客様が居るから3番テーブル準備しておいて頂戴」

里見 「はい。あ、お通しはどうしますか?」

麗香 「そうねぇ、いつもの所で頼んでおいてもらえる?油物少なめでね」

里見 「わかりました」

麗香 「じゃあ、お疲れ様」

里見 「お疲れ様でした」

清華 「さーとーみーくん」

里見 「っ、お疲れ様です」

清華 「お疲れ様、この後皆でご飯行くけど里見くんも来る?」

里見 「あ……けど、まだ掃除が」

清華 「大丈夫よ、皆もまだ着替えてないし、チーフ達も一緒だから」

里見 「……じゃあ、はい」

清華 「うん。じゃあ後でね」

里見 「…あのっ、」

清華 「なぁに?」

里見 「今日8卓に来てた、あのお客様って…」

清華 「…あぁ、葛城さん?」

里見 「葛城…あ、あの人って……なんていうかその、どういう…?」

清華 「私も初めてのお客様だったわ、でもママの昔からのお客様みたいよ?」

里見 「そうなんですか……」

清華 「…どうかした?」

里見 「いえ、……別に」

清華 「…あぁ、もしかして狼って言われたこと?」

里見 「…っ、」

清華 「…葛城さんの言った通り、なのね。…何かあったの?昔」

里見 「……俺、高校辞めてるんです、2年に上がってすぐの頃。その時俺も地頭がバカなもんで、喧嘩ふっかけられたら片っ端から買ってるような、ほんとにどうしようもない奴で」

清華 「そう…」

里見 「俺がいた頃の二高って、今以上にすげー荒れてて、それこそ流血沙汰の喧嘩なんて校内外日常茶飯事みたいなもんだったんですよ。…俺、自分からは喧嘩はしたりしなかったんですけど、そん時つるんでた奴らが俺よりバカな連中ばっかりで。それこそ、サツの世話になるような奴も多くて、で、仲良かった奴が…女の子なんすけどね」

清華 「…彼女?」

里見 「いや、そういうんじゃなかったんですけど…、そいつが、レイプされたんですよ、学校の奴に。…しかも顔ボコボコに殴られて、

意識失うまで…それ、見つけたのが俺で。………頭に血が上ってそいつの事気付いたら殴り飛ばしてて…」

清華 「その子、どうなったの?」

里見 「女の方は、それ以上手は出させなかったんで大丈夫だったんですけど、男の方は……止められたのがもう少し遅かったら、あのま

ま殺してたかもしんないっす。それから、俺がヤバい奴だ、って噂が広まって、俺もやさぐれで荒れてって…、その時の渾名(あだな)っつーか、そういうのが、その……狼、で」

清華 「そういうこと……それが原因で、学校は辞めたの?」

里見 「それだけじゃないし、それがあったから、って訳でもないんですけど……なんか、そういう目で見られるのが疲れた、っていう

か……、って、すみません清華さんにこんな話……」

清華 「ううん、いいのよ。……そうか、里見くんも苦しい思いしたのね…だから、あの時ちょっと嫌そうな顔してたのね」

里見 「…そんな顔、してました?」

清華 「してたわよ、眉間にちょっと、皺がよってた」

里見 「…はは、清華さんの目には適わないですねぇ」

清華 「里見くんより、長くこの世界に居るからね。自然と養われていったのよ。……じゃ、私着替えてくるわね」

里見 「あ、はい。俺もすぐ終わらせます」

(身支度を整えた清華を見送る里見)

清華 「さてっと、ご帰宅ご帰宅」

里見 「お疲れ様でした、清華さん達は、タクシーですか?」

清華 「えぇ。里見くんは?確か方向は同じよね?乗っていく?」

里見 「あ~いえ、俺は歩いて帰れるんで。じゃあ、お疲れ様でした」

清華 「お疲れ様っ、明日も宜しくね」

里見N『二高の狼、なんて二度と呼ばれる事ないと思ってたのによ。……葛城、か。何者なんだ、あのオッサン………』

葛城 「話は終わったか、狼少年」

里見 「…!?あなた、いつから」

葛城「気にしない気にしない。ほんでお前に今日会ったろう。覚えてねぇか?」

里見 「…葛城、様ですよね」

葛城 「おーおー、覚えてたか。良いねぇ、出来るやつは好きだよ俺は」

里見 「…葛城様こそ、一介の黒服をよく覚えていらっしゃいましたね」

葛城 「おう」

里見 「……あの、何か?」

葛城 「いんやぁ?…なぁに、ちぃと君と話してみたくてね」

里見N『ほんと、何だこのオッサン…』

葛城 「まぁまぁ、警戒すんなって。どうだ、得体の知らねえオジサンと、一杯」

――BAR 「resto」にて――

葛城 「で、狼少年くん」

里見 「…里見です」

葛城 「あん?」

里見 「里見京介です。名前」

葛城 「はっはっは、狼少年は嫌かい」

里見 「…昔の話です。それにもう、俺はそういうのは……」

葛城 「なぁ!オ・オ・カ・ミくん」

里見 「…からかってんすか……?」

葛城 「お前、今、楽しいか?」

里見 「え…?」

葛城 「今は、楽しいかって聞いてんだよ」

里見 「たの、しいっすよ」

葛城 「ほぉう?」

里見 「…麗香さんも、清華さんも、他の人も皆いい人だし、働くにはいい環境だし、それに」

 

葛城 「…それに?」

里見 「……もう、要らなく疲れないし」

葛城 「……お前、あの店にいて将来どうなりたい」

里見 「……別に」

葛城 「かぁー、若いもんが夢も何もないのかい。つまんないねぇ…こう、ビッグになりたい!とかないのか」

里見 「ビッグに、ですか」

葛城 「俺がお前くらいの時はなぁ、男なら何かを成し遂げてぇと思って躍起になったもんよ。ま、その前に居場所を見つけちまったが」

里見 「…俺は別に、安定してたらそれでいいかな、って。金貯めて、好きなもん食って好きなもん買って、それで楽しいし」

葛城 「狼少年は、随分と微温湯(ぬるまゆ)に馴染んじまったみてぇだなぁ」

里見 「葛城さんのいう、微温湯がどういうものかはわかりません、けど。…少なくとも昔みたいに荒れてる俺は、俺の中ではもう忘れ

たいんっすよ」

葛城 「なぁオオカミくんよう」

里見 「だから……、って、え?」

葛城 「お前、俺と一緒に稼ぐ気はねぇか」

里見 「……は?え?」

葛城 「俺は、人を見る目は養ってもらった自負がある。お前は、一介のクラブの黒服で終わる人間じゃあねぇだろ」

里見 「……どういう、ことですか」

葛城 「お前の噂は聞いてる。腕っ節がいいのも、お前の人望の厚さも。俺はな、お前みたいな目をしたガキを燻らせておくのは勿体ねぇと思っちまったのよ。あぁ、勿論今日こうして酒を酌み交わしただけの関係だ、お前が警戒すんのも分かってる。だがな、本当にお前このままでいいのか…考えてみてはくれねぇか」

里見 「……急に言われても」

葛城 「ま、そうだろうな。だが、俺はお前のその目に惹かれたんだ。本当は胸の内に熱いもん持ってるその目を」

里見N『…なに、言ってんだ本当に』

葛城 「まぁ、また店に顔出すからよ。そんときはこの話抜きでも構わねぇ、オッサンの晩酌の相手してくんねぇか狼少年!」

里見 「っ!!だから…!里見京介だっていってるじゃないすか!」

葛城 「まぁそう大声出すんじゃねぇよ。しかしお前、中々飲めるんだなぁ?まだ未成年だろぉ?何処で鍛えた」

里見 「俺の倍飲んでた人の台詞ですか、それ……」

葛城 「はっはっは、着いてきてたろうが、充分充分!……さて、お前家は近いのか」

里見「はい、ここからなら歩いても帰れるんで…」

葛城 「そうか、じゃあまぁ、今日は有難うよ狼少年。麗香さんにもよろしく言っておいてくれ」

里見 「はい」

里見N『それから、葛城さんは月に何度か店に顔を出すようになった。その内の何度かは店終わりに拉致されるように飲みに連れ出されては色々な話をした。最初のような、小難しい話こそしないものの、時折値踏みするような視線を向けられる以外は凄く面白くて、店に来ても名指しで俺が呼ばれる事も多くなっていた』

 

- CLUB en rêve  -

 

 

葛城 「よう、里見」

里見 「いらっしゃいませ。(席に通す間を置いて)…生憎今麗香さん立て込んでおりまして、すぐお付けする事ができないんすけど…」

葛城 「いいよいいよ、麗香さんが人気なのは分かりきってるからな」

里見 「清華さん、お呼びしますか?」

葛城 「いや、清華ちゃんも忙しいだろ。お前が付け」

里見 「俺が、ですか?」

葛城 「おう。なぁに、麗香さんが来るまでの繋ぎで構わねぇから」

麗香 「あら、貴方達いつの間にそんなに仲良くなったの?」

里見 「えっ、」

葛城 「いやぁ~実のトコロ、清華ちゃんは止められてたからな。"京介くん"を口説いちまった」

麗香 「あらいやだ、貴方男の子でも見境ないのね?里見くん、この人口ばっかりじゃないから気をつけなさいね?」

葛城 「おお?口ばっかりじゃないとどうして知ってるんですか麗香さん」

麗香 「貴方に泣かされた女の子の数、両手の指の数以上は見てきたのよ、ふふ」

葛城 「おぉ、こわいこわい」

(葛城の携帯が鳴る)

里見 「葛城様、携帯が」

葛城 「お?おお、よく気付くなぁ。(電話に出る)俺だ、どうした」

麗香 「里見くん、ここはいいわ。仕事に戻っていいわよ」

里見 「はい」

葛城 「……おう、そうか。……分かった(電話を切る)すまねぇ、麗香さん。ちょいと出なきゃならなくなっちまった」

麗香 「あら……お仕事?」

葛城 「あぁ、ちぃとばかり面倒事らしい。なに、この店に迷惑は掛けないさ。あ~お前、チェックしてくれ」

里見 「かしこまりました」

葛城 「麗香さん。最近この辺りに諫山(いさやま)組の奴が彷徨(うろつ)いているらしい、何も無いだろうが一応、気をつけて下さい」

麗香 「……そう。えぇ、わかったわ。有難う」

――閉店後の店内。遠くでパトカーのサイレンが鳴っている――

清華 「…最近、良く聞きますねサイレン」

麗香 「そうねぇ……まぁ、歓楽街だもの、おかしくはないけれど…」

清華 「それでも、こんなに沢山聞くことあまりありませんでしたよね…」

里見 「麗香さん、清華さん、送迎の車来ました」

麗香 「そう。じゃあ清華ちゃん行きましょうか」

清華 「はい、じゃあお先に失礼します」

里見 「お疲れ様でした」

里見N『確かに近頃サイレンが多くて異様だ、確かこの辺りヤクザの元締があるから、なんかあったのかな』

(裏路地に入っていく葛城らしき人影を見付ける)

里見「今のは、葛城、さん?​」

(思わずついていく里見、路地の入口から奥を覗いていると聞こえた銃声に思わず走って音のした方へ向かう)

里見 「…!!!」

里見N『なんだよ、これ………葛城、さん?』

葛城 「…よう里見。どうしたこんな所で」

里見 「葛城さん…!どうしたはこっちの台詞っすよ、今の音………」

葛城 「あぁなに、ちぃっとばかし、ネズミ退治ってとこだ」

里見 「…ネズミ?…!!!!」

(葛城の奥で太股を抑えて悶絶している男を見付ける)

里見 「……葛城さん、あんた一体……」

葛城 「……龍仁會。葛城組って名前を、この辺でチンピラやってて聴いた事がねぇとは言わせねぇ」

里見 「龍仁會、って……、は?え…?葛城組!??」

葛城 「里見ィ…お前、俺んとこに来る気はねぇか、まだ」

里見 「葛城さん、あんた……ヤクザ、なのか…?」

葛城 「そういう事だ。だがなぁ、極道っていうもんも面白ぇぞ。兎みてぇな小物を独りで狩っても、お前の腹は満たされてなかったろう…?お前はどう足掻いたって狼なのよ。貪欲で、常に飢えてる。このご時世小物狩りもどうなるか分からねぇ中で、デカい獲物を捕りにいかないのはつまらなくねぇか?どうするんだ、あぁ?少しは真面目に考えてみたらどうだ?”お前の人生”って奴をよ」

里見 「……お、れは……」

葛城 「里見。…お前はどうしようもねぇ孤独な狼どころか、ハイエナみてぇな連中の中でもテッペン獲れる器があると見込んでるからこうして喋ってるんだよ、昔ン頃の貪欲さ、ちぃっと起こしてみねぇか?な?」

里見 「……っ、」

葛城 「……どうする、俺と、来るか?」

里見N『…俺は、狼なんかじゃ…そう思ってたし、そうでありたかった。なのに、どうして』

葛城 「お前の人生、つまんねぇままで終わらせんのか、里見」

里見 「………俺は、俺はっ!!!」

葛城 「里見京介、もう一度聞こう。………俺と来るか」

里見N『…この人について行けば俺は、このつまんねぇ世界をぶち壊せるのか?………この人の手を取るって事は、道を踏み外すって事だ。…いいのか?何かになりたい訳でもないのに、簡単に踏み外しても、本当に………』

葛城 「おい。何回も言わせんな。どうすんだって聞いてんだァオラァ!」

里見 「………やってやりますよ。俺は、…俺を見初めたその目を!信じます!」

葛城 「ふっ。…だーっはっはっはっ!そうこなくっちゃ~、面白くねぇよな。…そいじゃま、付いてこいや」

葛城N『あんたが育ててくれたこの"目"が、こいつだと訴えてきた。どうだい俺の審美眼。……悪かねぇだろ、親父…!』

                                                      

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