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糾縄の血 本篇

​第三章 壮途

≪ 登 場 人 物

配 役【♂4:♀1】

​▦  里見 京介 / サトミ キョウスケ 

蘇摩第二高等学校在学中、日々喧嘩と暴力沙汰に明け暮れ、群れを成さずたった独りで集団を腕っ節だけで圧倒し、

蘇摩町にその悪名を轟かせたチンピラ界隈では伝説となっている通称 "二高の狼"。

​自主退学後、路頭に迷った挙句、高級クラブ「CLUB en rêve(クラブ アンレーヴ)」で "黒服”として勤務する。

▦ 西方 蓮司 / ニシカタ レンジ 

若くして葛城秀典が組長を務める葛城組において、若頭補佐を務めている。
頭が良く、洞察力に優れる天才肌の極道。右眼上の傷痕と、組内で唯一の染髪頭(金髪)で短髪がトレードマーク。

ひょんな会話が経緯となり、葛城直々に、里見の教育係として任命される事となる。

▦ 冴木 義弘 / サエキ ヨシヒロ 

龍仁會系葛城組・若頭筆頭補佐。※西方と同職だが、立場上組内においては西方よりも上位に位置する

細身でオールバック。目付きの鋭い武闘派だが、組の行く末を思う気持ちは人一倍。それゆえか現体制を良く思っていない。

シノギに関しては特に敏感で、ていたらくな若衆に対して鉄拳制裁は日常茶飯事である。

▦ 繫田 宰  / シゲタ ツカサ 

龍仁會系葛城組・若頭。※葛城組におけるNo.2。組長・葛城 秀典(第一章/第二章登場)に継ぐ権力者

組長・葛城の直下位葛城の右腕として組自体の運営を実質管理している存在であり、穏健派故に常に冷静な判断を下す。

外部からはよくその風格から、「葛城組長」と間違えられる事が多々あり、内心ウンザリしている。

▦ 羽渕 真理奈 / ハブチ マリナ 

蘇摩町中心部・映画館通りに位置するセレクトショップ「 ilfaitbon(イルフェボン)」で従事する女性。

里見と同じ蘇摩第二高校卒業で、同じクラスの同級生だった。まともに名前で呼ばれる事が無い運命にある。

前髪パッツンボブカット+丸眼鏡の相乗効果で社会人デビューに成功した地味女子だが、昔は自分磨きに忙しかったらしい。

 

※今章では、男性4名が組の若衆(読:わかしゅう。組長から盃をおろされた子分の事)を兼任して戴きます。​

​ 演じ分けをお愉しみ戴きたく思いますので、比率はあくまで♂4:♀1のまま、変えずに上演ください。

▦ 久米 保志  / クメ ヤスシ 

龍仁會系葛城組・若衆。体育会系のノリが光るお調子者。元気だけが取柄の無精髭を生やしたつるっぱげ。実家が豆腐屋。

(配役:里見京介役キャスト様が兼任してください)

▦ 峰山 充昭  / ミネヤマ ミツアキ 

葛城組若衆。若衆だが本人曰く齢はオジサン。お腹もたるんたるん。室内でもサングラスを着用する見えっ張り。

(配役:西方蓮司役キャスト様が兼任してください)

▦ 安東 航  / アンドウ ワタル 

葛城組若衆。元々力士を志していたパンチパーマの大男。趣味は和食を作る事。責任感が強い。

(配役:冴木 義弘役キャスト様が兼任してください)

▦ 佐上 廉  / サガミ レン 

葛城組若衆。引っ込み思案の優しい性格。一番"らしくない"純朴な青年。里見の2つ程歳上。

(配役:繫田 宰役キャスト様が兼任してください)

   この作品はフィクションです。

実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

-蘇摩町東南・恵比寿通り-

-葛城組事務所内-

 

久米「おざぁっす!」

峰山「お疲れサンです!」

佐上「お疲れ様です・・・」

安東「お疲れ様ッす!」

(数十名の若衆達がお辞儀を此方側へ向けている

 

西方「毎度毎度、手厚いお出迎えご苦労様、っと。…ははっ、何驚いてんだ。適当に座ってな」

里見「Vシネでしか見た事ねぇや、この光景。さすがに……圧倒されますね。色々と…」

西方「何言ってんだ。圧倒も何も、お前これからコイツらとヨロシクやるんだぞ?(若衆連中に向かって)…オイ。まだ来てねぇのか?」

佐上「は、はい!…カシラは少し遅れると……冴木の兄貴は…、特に連絡は…」

西方「はぁ。ドラフト1位入団のゴールデンルーキーのお出ましに、のっけから立ち会えず、か。何処で油売ってるんだかね。全く」

里見「あの、こんな事言ったら怒られちゃうかもしんないですけど…意外に……狭いんっすね…事務所って…」

西方「ん、ああ。中古で親父がようやく見つけてくれてな、我慢我慢。最近はヤクザには信用問題だぁなんだってやかましくて。貸す方も一筋縄じゃ行かなくてさ。そのまま『デデーン!葛城組事務所!』なんて構える訳にもいかない。そんな事してみろ?あっという間にサツにパクられちまう。そこに立ってる若い衆に一生懸命お掃除はさせてるけど、古臭さは否めねぇかな。ほぅら、そこのドアなんて、何度も直したけど建付けがどうも悪くて」

里見「建付け、ですか。金具とか、建物自体が古いから、なんですかね。やっぱし」

西方「ははっ、それが建物のせいに出来ぇんだわ、そこばっかしは。いつも蹴破って入ってくる荒々しい人が居てね、」

 

ドアが蹴り開かれて、倒れるドア

 

冴木「おい西方。てめぇ…コレはなんの冗談だ?あぁ!!?」

西方「はぁ。言ってる傍からコレだよ。……ドアノブ付いてんですから。いい加減にきちんと回して引いてくださいよ。思っている以上に直すの大変なんですから」

冴木「話ィ逸らしてんじゃねぇよ。カタギのガキ、組に入れるだぁ?ついに葛城の親父もどうかしちまったんじゃねぇのか。こんなもん後付けで "はい、そうですか"、って単純な問題じゃねぇだろうが。いつから仲良しチームになったんだ?おぉ?」

西方「ドアとか俺に当たり散らさないでくれますか。オトナでしょう?冴木さん」

冴木「てめぇ西方……!おいコラ。そこのガキ。そこは組のモンしか座れねぇ場所だ。立てや」

里見「え、あ、はい?」

冴木「おいおい、人の話も聞けねぇのか?ガキっつったらお前しかいねぇだろうが。立てや」

西方「俺が座らせたんすよ。冴木さん」

冴木「うるせぇな。なぁに俺なりの"挨拶"をしてやろうってんだ。教育っつぅもんはな…これが一番手っ取り早ぇんだよ…黙って見とけぇやあぁ!(里見の腹を殴る)」

里見「ゴフッッ!!!」

西方「冴木さん、その辺で。…(威圧するように)オトナだろ?」

冴木「けっ、同じ若頭(かしら)補佐でも、てんで甘ちゃんなオメェとは違ぇんだよ西方。言葉は要らねぇ。拳で分からせてナンボだろ?俺達の世界じゃ理不尽もクソもへったくれもねぇ。いきなり撃たれる。いきなり殴られる。いきなり御陀仏、って事もあらぁな。舐められたら終ぇだからな」

里見「ゴホッゴホッ…ハァ…いっつつつつ…でも、俺こういうの…慣れてますから…全然まだまだ、…いけるっす」

冴木「…あぁ?瘦せ我慢こいてんじゃねぇぞコラ」

西方「あっははは!腕自慢の冴木さんの拳をくらって、悶絶しないなんてな~!”殴られ慣れてる一般人”、か。そう来なくっちゃ」

里見「いやでも、慣れてはいますけど、い、痛いもんは痛いんすから!」

冴木「ちっ、くだらねぇ。慣れ合いもガキの面倒も俺ァ御免だ。それがたとえ、親父の命令だとしてもだ。世話役を仰せつかった西方 "先生"、宜しく頼みましたよ?」

西方「ハハッ。親父の命令に抗ってるような先生の教育なんて、受けさせられたもんじゃないですからね。俺は生憎"手より口が先"なので、ご安心くださいな」

 

繫田が遅れて入室

 

繫田「ご苦労」

冴木「か、カシラ!お疲れさんです」

西方「お疲れ様です、カシラ」

繫田「遅れてすまなかった。葛城の親父から今日電話で話されてな、話は聞いてるつもりだ」

冴木「…にしても本気なんですかい、この青臭ぇガキを組に入れるってのは…俺ァいきなり何が何だか分からねぇんですよカシラ。ここはひとつカシラの口から、どうか親父に考え直してもらうよう言ってもらえねぇもんですか?他の組のモンにもこれじゃ示しが…」

繫田「その葛城の親父の意向なんだ。俺達がどうこう言って変えれる立場じゃねぇだろ。それをいちいち若頭(カシラ)補佐筆頭のお前に、わざわざ俺が言わなきゃいけない問題なのか?考えてから物は喋るモンだ」

冴木「…くっ…申し訳…ありません…」

繫田「里見、って言ったか。若頭の繫田だ。いずれは盃を貰う事になるそうじゃないか。こうしてコッチの世界に頭までどっぷり浸かるんだ、チンピラ、不良だのとは訳が違う。道を外すという事を良くそれまでに考えておくんだな。…この先は、甘くはない」

里見「…はい。俺もまだ、正直何が何だか分かってないんです。いきなり葛城さんに誘われて、西方さんに車に連行されたと思ったら、…冴木さんにいきなり殴られて。極道ってのも、…良く分かんないです、正直。……俺は、何か、役に立てるんですか?」

西方「言ったろ?俺が飼い主だって。お前はその辺は盃交わすまでは気にしなくていいよ、後でみっちり教えるし、どの道どんな世界かは勝手に分かる。あと。今のうちから言っとくけど…、今お前と話してる人達を「さん付け」で呼べたり、馴れ馴れしく会話できるのも今のうちだかんね?」

繫田「世話役に関しては親父の言う事に俺も異論はない。任せたぞ、西方。さて、今日は生憎立て込んでてな、少しの顔合わせ位にしかならんが、明日の昼まで外す。冴木。ツラ貸せ」

冴木「はい」

繫田「お、そうだ。西方」

西方「はい、なんでしょう」

繫田「今の状況が状況だ。散歩の前に、ペットならペット用にきちんとした一張羅を着せとけ。俺達は顔で生きてナンボだ」

西方「承知しました…お気をつけて」

 

繫田・冴木退室

 

里見「(カシラ…、今のが葛城組の若頭…って事は、葛城さんはやっぱし組では一番偉い人だったって事か…)」

西方「さてっと。よーし里見クン。大人のデートの続き。最後は"お洋服"を見に行こっか?なーに、俺からの"入社祝い"だと思ってくれていいよ」

里見「え!?あ、ありがとうございます!…って、こんな夜も更けてるのに、まだやってるスーツ屋なんか無いんじゃないすか?」

西方「バカ言え。蘇摩町(この町)は関東地方最大級の繁華街…、おまけに夜行性だからな、夜に店じまいする方が、かえってお馬鹿さんだよ。先方さんには俺のテレパシーで連絡してあるし、組のモンも一派からげて、そこで世話になってんだ。モーマンタイモーマンタイ。

それに、俺が仮にも面倒見る事になってんだ。そんな煤けた(すすけた)スーツなんか着せて、隣は歩かせねぇよ」

里見「テレパシーって!大丈夫かな…本当に」

 

 

-蘇摩町東南・恵比寿通り-

-葛城組事務所前-

 

繫田「冴木」

冴木「分かってますよカシラ。あのガキの事ですかい?」

繫田「ふっ。で、”どうだった”?」

冴木「一見、普通の若造に見えますが、あの通り上背もありますし、ガタイも大したもんですわ。腹ァ穴空く位かましてやったつもりですが、ケロッとしやがって」

繫田「前評判通りで、何よりってところか?」

冴木「親父の思惑通り、いずれ組を張る存在になる見込みだ、ってのは間違い無ぇんでしょうが、あの通り青臭さが目立っちまってるうちは…思いやられますよ」

繫田「西方も馬鹿じゃない。躾はそれなりにする筈だろう」

冴木「チッ、しかし何を考えてやがるか分かったもんじゃねぇ、葛城の親父も。ただでさえ諌山(いさやま)ン所に手焼いてる最中だってのに…ちまちまと、みかじめせびったり、競馬予想に…パチンコギャンブル必勝法だァ、直系昇格が遠のく一方じゃねぇか!舐めやがって…俺ァどうしても今のやり方、納得いかないんですよ…カシラ…」

繫田「何を焦る事がある。お前はその闘争心さえ失わないでいればそれでいい。まだ、その時じゃない。納得がいかねぇのは、重々承知してる。この組の未来も、このままでは運営そのものが危うくなってしまう現状…、細いシノギだけではどうにもならん。だが、そのガキの世話話と同じ事…安心しろ。何も策がないとは思っていない。俺を、誰だと思ってんだ?冴木」

冴木「へへっ。そんなもん言わずもがなですわ、カシラ。道中、どうか気い付けて。…………………頼みましたよ」

 

-蘇摩町中央・駅前通り-

-セレクトショップ ilfaitbon(イルフェボン) 前-

 

里見「で、来たはいいっすけど…閉まっ、てないすか?クローズの札、出ちゃってますけど」

西方「あれ。おっかしいな。店閉めちゃってんな。近頃不景気だしな~、開けてても閑古鳥がってか~?(ドアを叩きながら)おぉーい!ハブちゃーん!…え~…忘れちゃったかな?連絡は入れた"つもり"だったんだけど…」

里見「あ。誰か来ましたよ?」

 

(薄暗いガラスドアの向こう側に、奥から女性がやってくる

 

羽渕「はぶち、です。お店の前で騒がないでください。ちなみに今回も連絡は戴いてないんですが、いらっしゃるだろうなって。何となくですけど」

西方「お~ハブちゃん!毎度毎度テレパシーでごめんね。急遽職場の同僚のスーツ買わせて欲しくてさ!…早くドア、開けてくんない?」

羽渕「は・ぶ・ち、です。さすがに閉店時間は私の力じゃ変える事が出来なくって。そちらの男性に合わせる感じで良いですか?いつも御贔屓(ごひいき)にして戴いてるので…、ご予算に合わせて特別に、何着かお持ちしますけど?」
西方「コレで。(札束を豪快に渡しながら)コレで、ギリギリ買える位のとびっきり良い一張羅をくれ」

里見「……うわっ」

西方「お?なんだ?どうした?」

羽渕「……うわっ」

西方「ん?なんだよ2人して。そんなお目目真ん丸くしなくても。たかが4、50万じゃない。なにもフリーズしなくても…」

里見「ぶっちーじゃねぇか!お前何してんだよ、こんなトコで!ギャル卒業したんだな」

羽渕「それはこっちの台詞。アンタこそ元気そうじゃん。退学になってから、風の噂じゃ死んだ事になってるから。ド金髪(キンパ)ロン毛のカチューシャ頭から、フツーのお兄さんになってんだもん!雲泥の差、ってこういう事言うんだろうなぁ」

里見「勝手に人を殺すんじゃねぇっつうの。悪かったな、昔は泥で」

西方「な、なーんだよ。お知り合いね。うん、よくあるよくある。広いようでせめぇもんだね、世間って奴は」

羽渕「あ、西方さん。この人、少しお借りしても宜しいですか?中でパパッって採寸しちゃうので…」

西方「お店の中で…?ははーん。これもよくあるよくある。あんましオジサンに内緒で若いモンが、こそこそとイチャコラしちゃダメ」

羽渕「(遮るように)しません。では。…ほら。早く入んな、バレたらヤバいから」

里見「え、あ。おう!」

西方「あっちゃー、手厳しい。おーい!ちっとはまともなの選べよ~?出世払いでツケとくからな。イッヒッヒ」

里見「ゲッ!そりゃないっすよ!……に、20年払いで…」

西方「分けすぎだアホ!」

 

-セレクトショップ ilfaitbon(イルフェボン) -

羽渕「どうして?」

里見「あ?」

羽渕「どうしてヤクザと一緒にいんのよ。チンピラ街道まっしぐらじゃん」

里見「どうして、って言われても…。俺も良く分かんねぇ。でもよ、俺だってここしばらくは、ぶっちーと同じ接客やってたんだぜ?」

羽渕「せ、接客…?うそ…。二高の狼が…?ちゃんと敬語、喋れた?」

里見「っせぇよ。あァーどいつもコイツもその名前で呼びやがって!もうウンザリだっつーの…」

羽渕「仕方ないでしょ。この街住んでて、特にウチらの世代じゃ知らない人いないもん。そんだけ有名だったからねー、"里見京介くん"は。そんで?どうせ、ヤクザの先輩に職場のケツ持たれてるってトコでしょ」

里見「ちげーよ。なったんだよ」

羽渕「…なっ…た?」

里見「龍仁會系葛城組若衆(わかしゅう)。正式には、まだなってねぇけどな」

羽渕「はぁ。順調にヤーさんデビューしちゃって、"制服選び"にウチに来ちゃったって訳か…」

里見「…あんだよ」

羽渕「別に京介だけじゃないけど、同級生の男子たちみーんなロクな生き方してないなって思ってさ。ほら、いっつも京介とつるんでた

   あのズッコケトリオいたじゃん?結局あの後、高校受験したけど失敗して、今じゃ半グレのホームレスなんだとさ…」

里見「ほーん?ま、どうでもいいわ。ロクな生き方なんて、分かんねぇよ。俺には」

羽渕「ホント。人生って良く分かんないよね。私の場合はそのまま就職したけどさ、昨日も酔っ払いジジイの相手してストレス凄いし。

   スーツ買いに来てるクセに電話番号渡されて"アフターおいで"って。…キャバクラじゃねぇんだっつーの!」

里見「ぶっちーさ。スーツ、好きなのか?」

羽渕「は?……何、急に」

里見「スーツが好きだから、この仕事やってんだろ?」

羽渕「んな訳!スーツが好きだから、ってどんな癖(へき)なんだか。地元で就職しなさいって親が喧しくてさ。仕方なくやってるってワケ。…なんで?」

里見「そんなモンだよな。やっぱし。……そんなモンだよな」

羽渕「…と、とりあえず!!お高いヤツ買うんでしょ?取り敢えずこの辺のスペースから、わりかし高価な物は置いてあって……向こう側に行けば行くほどお高くなってるからさ。そこまでカチっとしてなくてもいいのかなとは思ったけど、金額が金額だしね」

里見「決めた!俺これにするわ!」

羽渕「…あのさぁ、少しは迷うとかないの?うわっ、しかもよりによってソレ…?」

里見「えーと、なになに、"ジャケット・ベスト・パンツと3点セットになりワンランク上の男を演出! クラシカルなディテールながらも

洗練された都会的なデザインで、貴方の魅力を磨きます" か。あー、でもベストは要らねぇや。ワインレッドカラーか…良い色してんじゃん…」

羽渕「ふふっ、でも京介らしいと言えば、らしいのかもしんないね。知ってる?ワインレッドの色の意味。充実とか、安定とか…いくつかキーワードがあってね。その中に自己回復って意味もあるらしくて…もしかしたら京介がその色を手に取るって事は、アタマとカラダが意外にスッキリして、自分を取り戻すって事なのかもね」

里見「…意味とかはよく分かんねぇけど。俺はこれでいい」

羽渕「はいはい、あははっ、アンタはいいかもしんないけど、そんな派手なの着て出て行ったら、西方さん何て言うかね。まぁ、わりかし京介みたいなガッチリ系の体格の人も着れるようなモノだしね、店員目線で言えば、機能性は問題ないとは思う。先輩に感謝しなさいよ?こんな立派なやつ、普通のサラリーマンじゃ、まずポン買い出来ないんだから!」

里見「大丈夫だって!20年払いで元はきちんと取っからよ!」

羽渕「……いや、分けすぎじゃないかな…さすがに…」

 

-蘇摩町中央・駅前通り-

-セレクトショップ ilfaitbon(イルフェボン) 前-

 

西方「お。終わったみたいじゃん。早かったな随分。……ぅえ!!なんだ、その上の色。黒シャツはまぁ良いにしても…、いくら見え張りが大事っつってもだな…」

里見「良いんす。俺、なんかコレが良いんです。理由も良く分かんねぇんすよ」

西方「ハァ…まったく。お前って奴は。店員さんとしての感想は?ハブちゃん」

羽渕「私も、…似合ってないと思います。全然似合ってないと思いますよ。でも、本人がこれから、似合うように頑張るんですって!20年かけて!ふふっ」

西方「そうですかい。…だがよ、俺からも一つ着こなしについてアドバイスだ。上まできっちりシャツは閉めるんじゃねぇ。首元は開放的に、だ。…よし、こんなもんだろ。コイツのニヤケ顔見てればもうお分かりの通り、ご満悦だそうだ。また世話になるよ、ハブちゃん」

羽渕「あ。良い機会だから念押ししておこうっと。もうテレパシーは止めて下さいね?あ、あと、京介?」

里見「あん?」

羽渕「頑張ろうね、人生」

里見「あ?あのなぁ。肩肘張ると肩こっちまうぜ。ありのままで良いんじゃねぇか?あと、スーツサンキュー。大事に着っからよ、コレ」

 

-蘇摩町東南・恵比寿通り-

-葛城組事務所内-

冴木「急に呼び出して悪ぃな、佐上。お前だけ、こんな夜も更ける時間によォ…」

佐上「あ、い、いえ…それで冴木の兄貴、ご用件は…?」

ゆっくりと近づき、壁際へと佐上を追い詰めていく冴木

冴木「お前もよ、極道の端くれ。ちったぁ自分の身の丈を伸ばしてみようと思わねぇのか…?いつまでも事務所警備しくさりおって…」

佐上「…え、ええ…まぁ。で、ですが、兄貴の為になる事があれば、なんなり言ってください…!出来る範囲で力になりたいんです、俺も…」

冴木「ほう…、"出来る範囲で" なんて、そんな堅苦しい事言わねぇでよ。ちぃとお前を見込んで頼みがあんだよ」

佐上「は、はい?なんでしょう?」

冴木は遮るように壁ドンして、ドスの効いた声で耳元で語りかける

冴木「(メモを渡しながら)ホレ。ここに書いてあるとぉ~りに。場所も記してあっからよ」

佐上「…はい」

ニヤリと笑い、そっと離れる冴木

冴木「へへっ。宜しく頼むな?下手ァこくんじゃねぇぞ」

 

冴木、ドアを乱暴に閉めて退室

 

佐上「字くらい、殴らないで書いて欲しいなァ全く!…県、議会…議員……速見(はやみ)…正隆(まさたか)…?」

 

To be continue...

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