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カラフルメイズ。

​― とある不器用達の夜のおはなし。

   登 場 人 物 

 配 役(男1名:女1名)

安達 荘輔 あだち そうすけ

​冴えないボンクラサラリーマン。現実逃避をするべく、何となく夜の港へ足を運んでみた様子。

アンナ

​男っぽい女の子。オールバックに真っ赤な口紅。ライダースジャケットにジーンズ姿。言葉遣いに難アリ。

​※荘輔役は、ナレーション部分があります。「N」と配役横に付いている台詞は該当部分です。

アンナ「おにいさーん!ねぇ!お兄さんってば!いっつもここで何してんのーー!」

 荘輔「……はぁ…なんでこうドジで!マヌケなんっだよ!俺は!!あー自分に腹立つわクッソ…」

アンナ「オ!マ!エ!だ!よー!」

 荘輔「(遠方背後から呼ばれて)…えっ!あ、俺すか?」

アンナ「ここにいつも何しに来てんのー?しかもスーツにカバンにテッカテカの靴、この辺の人じゃないっしょー?」

 荘輔「(…男?いや…女の…子…髪の毛オールバックで真っ赤な口紅に革ジャンジーンズ………女の子か…?うわ、こっち来た)」

アンナ「…ジロジロみてんなよ。きめぇから」

 荘輔「え。いや呼んだのそっちじゃ……あの、なんですか?何か用、ですか…?」

アンナ「サッカーしようぜ。暇でしょ?」

 荘輔「は?え、サッカー、ですか?あのすいません、ちょっとこの後用事が」

アンナ「こんな夜更けに?てーか、もう23時周っちゃってっけど?あ、そだそだ。車?歩き?チャリ?」

 荘輔「……チャリ、ですけど」

アンナ「さっき何かぶつぶつ言いながら、珈琲の缶コロ蹴っ飛ばしてたって事は、あー!なんかイライラしてたんでしょー?」

 荘輔「あの~…もういいすか?俺、明日朝早いんで。アレ?てかこうして近くでよく見たらあんまし歳変わんなそう、だね。

    キミも明日仕事とかなんじゃないの?こんな港で遊んでないで、深夜になるとこの辺夜道とか余計危ないだろうし。帰んな?

    …ほら、女なんだしさ」

アンナ「(ビンタして)女じゃねぇ!」

 荘輔「痛ッ!はぁ!?…いや、どっから見ても女だろうが!」

アンナ「オンナ、じゃねぇよ!オンナノコって言えよ!」

 荘輔「す、すいません!…え。あれ。いやいや違くて。ん、何で謝ってんだ俺。つうか何この状況…どんな状況!?」

アンナ「オレ、アンナ。お前は?」

 荘輔「…そうすけ。あだち、そうすけ」

アンナ「ふふっ。さ、そうと決まれば着いてきなよ!ボール、もうあっちの方に置いて来ちゃってっから」

 荘輔「ん、えっとーゴメンね。何が決まったの?」

アンナ「ハァ?名乗り合ったんだから、もうオレ達はダチって事に決まってんじゃねぇかよ!友情の、証。…ねぇ早くぅ!やろうぜサッカー!」

 荘輔「だから!俺今からコンビニ寄って!夜食買って!タラタラ映画を観たら寝る予定があんだよ!帰るって言ってんだろ!

    なんでこんな蒸し暑い夏の夜中に、汗水垂らしてやんなきゃなんねぇんだよ」

アンナ「はーー?つーまんね。何ソレー。女の子の誘い断んのかよー。だからモテねぇんだよ~お前!」

 荘輔「お前その口調なんとかなんねぇのかよ…ゴホン、俺、さっき会ったばっかだし、初対面だろ?」

アンナ「オレは初対面じゃねぇから!オレも夜いっつもここに遊びに来るけどさ、そうすけもいっつも来てんじゃん。港(ココ)」

 荘輔「…あ、見られてたって事か。うん、まぁむしゃくしゃしたりするとさ、いつもココに来て海の水面とか、あのおっきい漁船とかさ、

    あ。ほら、あそこにある積まれてる海上コンテナの山とか見てるとさー、非日常つぅか。会社に袋詰めで働いてる身からしたら、

    良い気分転換つかさ」

アンナ「一緒だ」

 荘輔「……へ?」

アンナ「オレもさ?あそこに積まれてるコンテナの山ん中でさ、ソレにいつも思いっきりサッカーボール蹴っ飛ばしてるとスッキリすんだよね。

    そうすけは知らないかもしれないけどさ、もう少し奥に進んでくと、なんか迷路みたいになってて面白いんだよな~!」

 荘輔「 "ソレに向かって蹴る" …って、あのなぁ。もし凹ませたりしたらどうすんだよ…、良いじゃねぇかよコンクリの壁とかに向かって、

    それこそそこに思いっきり蹴っとけばさ」

アンナ「ガァン!ガァン!って音がして、"何かにぶつけてる" って気分になってさー!なんつぅかあるじゃん?そういう気分の時って」

 荘輔「…(見つめる)」

アンナ「は?え、なんだよ…」

 荘輔「はぁ。やるか、サッカー。…迷路サッカー。ちょっとだけだかんな?」

アンナ「マジ!?いやさすが!モテる男は違うねぇやっぱ!よし!先にあそこに着けなかった方が、缶ジュースな!よーいドン!イシシッ」

 荘輔「さっきと言ってる事逆じゃねぇかよ……ってちょ!待てよー!おい待てって!」

N荘輔「ふと我に返ったら、あまりにも無邪気で、男勝りの割には華奢な背中を、バカみたいに夢中で追いかけている自分がいた。

    ただ一つだけ言えるのは、息を切らして走ったこの時、ここ数年間の中で一番、何にも囚われず縛られず、気持ちが良かった」

 

 荘輔「…ハァ…ハァ…いや、ちょタンマ。…祟ってんわ、運動不足…ハァ……」

アンナ「あはははっ!どうしたんだよー!膝に手付いてんじゃねぇよー!置いてくぞー!」

 荘輔「野生児かよ…アイツ…ハァ…ハァ…」

 

N荘輔「ふらふらになりながらも俺が辿り着いたその"迷路"。高く積み上げられた、赤・青・緑の大きい箱たち。

    無数の海上コンテナたちは、こうして内側から見てみると、なんだかオシャレでカラフルな壁にも見えた」

 

アンナ「はい。缶ジュース奢り確定ー!で、どう?……いい場所っしょ?」

 荘輔「ハァ…うん。まぁ…遠目から見てた事はあったけど、内からこんな近くで見る事ないからな~普通。

    いつも来てるはずなのに違うトコ来たみたいだわ。まぁ、なんか、面白いな!これはこれで!」

アンナ 「ここのコンテナが動かされる事って殆ど無いみたいでさ、いっつも同じスペースがこんな感じでたまたま出来てんの。

     しかも、夜だと人っ子一人居ないし、港だから照明もずっと付いてるし!天然のミニサッカーコート!ナイター照明付き!」

 荘輔「そういえばさ。サッカー、好きなの?」

アンナ「いや?理由はない。でも身体動かしてるとスッキリするっつーか!さ!早くやろーぜー!」

 荘輔「アンナも俺みたいに、なんかムカつく事あったって事?」

アンナ「……はぁ?……んなモンねぇよバカじゃねえの」

 荘輔「………ぷっ。恐ろしい位分かり易いな。おしわかった。こうしよう」

アンナ「んだよ」

 荘輔「ソレ、教えろよ。そしたらサッカーしてやっから」

アンナ「うわ出た。そうすけさ、性格わりぃって言われるっしょ?」

 荘輔「良いじゃねぇか別に。つか良く考えたら、缶ジュースだのサッカーするだの、お前の要望叶えてばっかし。聞けてもお釣り来るぜ?」

アンナ「はー?お釣りはさっき返しただろ!?」

 荘輔「そういう意味じゃないんだけど、うん。条件はちゃんと、釣り合ってると思うけど?」

アンナ「…フラ、れた…」

 荘輔「……は?え、なんて?」

アンナ「フラ……れた!…フラれた!」

 荘輔「……、ふ~ん」

アンナ「ちょ、なんだよ!ふ~んって!もっとなんかあんだろうが!」

 荘輔「そんで?何て言われたの?」

アンナ「……いや、オレもバカだったのかも。ズボラなのにさ、良い恰好しようとしてブランド物の服とか柄にもなく買って、

    喜んでもらう予定だったのにさ。…相手も、年上だったし、舞い上がってたのかもしんない」

 荘輔「どうせ、"その服どうしたんだよ?自分で買ったやつかソレ"、とか言われて "ちげーし!”って、拗ねたりしたんじゃないの?」

アンナ「………(驚いた顔で荘輔を無言で見る)」

 荘輔「そんっな素っ頓狂な顔しなくても。…そりゃーいきなり、スズメがカラスになったら相手もビビるだろうに」

アンナ「……そいつの為でありたいって思うから頑張った、でも距離はだんだん離れてくっていうかさ…」

 荘輔「ズルズル(買ってあげたはずの缶ジュースを飲む)」

アンナ「ボーイッシュな女性が好き、革ジャンが好き、…オレなりに色々考えたんだよな~…でも全部ことごとく空振ってさ……

    そしたらとある日洒落たレストランで "重い”って言われてはいサヨウナラ。ま。もー良いんだけど!フラれてっから良いんだけど!

    全然気にしてねぇからもう!」

 荘輔「アンナって、嘘つけない性格してると思うけどな~」

アンナ「…何が」

 荘輔「ガァン!ガァン!って音立てて、何かにぶつけたい思いがあるから、毎日蹴りに来てるんだろ?好きでもないサッカーボールをさ?」

アンナ「……」

 荘輔「俺は、今日初めてアンナに出会って、その相手がどんな容姿なのかも分かんないし、性格なのかも分かんない。

    それを抜きにしてもさ。嫌われたくねぇーとかさ。段々と出来てく距離を詰めてぇとか。尽くす事をし過ぎなんだよ、アンナは。

    自分の為の尽くし方になってくっつーか。結果的に、その距離が"関心事”になっちまってるんじゃねぇかな?」

アンナ「……それで?」

 荘輔「"関心事”であるうちはさ、尽くしたい尽くしたいの気持ちが強すぎて、結果的に尽くしすぎになってしまってんのさ。

    相手の懐に入りすぎたって上手くいかねぇんだよ、きっと。ややこしいな、恋愛ってのは。ズルズルズル…」

アンナ「飲んでんじゃねぇよ」

 荘輔「…なんか、ありがとな。話しづらかったっしょ?」

アンナ「別に?」

 荘輔「ふふっ。分かってんだか、分かってねぇんだか」

アンナ「何笑ってんだ。で、そっちは?何を "現実逃避" しに来てんの?」

 荘輔「……俺、ルーズなんだよ。何においても性格上さ。いち社会人だってのに、つい寝坊して遅刻して上に怒鳴られたりさ、

    もう日付越えちまってるけど、昨日なんか大事な保守業務すっぽかして店中大混乱……。

    本当は、人様にアドバイスできるような生活を送れてねぇんだよな。はぁ、情けない情けない」

アンナ「どうせスマホで、YOHTUBE(ヨーチューブ)とか映画とか見て、前日夜更かししたりしてんじゃねぇの?

    どうせ早く職場から離れたいとか思って適当にやってんでしょー?」

 荘輔「……そそ、ダメな事って分かってんだけどさー。ついやっちまうっていうか」

アンナ「朝早いなら寝れば良いじゃん!ダメなら止めればいいじゃん!ぜーんぶ自分じゃん!自分が悪いんじゃん、ソレ」

 荘輔「俺は俺で、グダグダ言ってないで"まずソレをやってみる”っていうか、それが出来ないから悪循環なんだよな。きっと」

アンナ「………オレの単細胞な所と、そうすけのそういう、結果はどうであれ、”これをやったらダメなんだろうな”っていうのが

    一つになってたら、どんなに楽なんだろうねーお互いにさ」

 荘輔「うん。後先考えずに進むのも、ある程度予測をしながら進むのも大事ってコト、か」

アンナ「ねぇ」

 荘輔「あ?どした、急に」

アンナ「……サッカー、もうしなくていいわ!なんか急にやりたくなくなっちゃったわ」

 荘輔「なんっでだよ!一張羅来てる疲労困憊の俺を、あんっだけ隅から隅まで走らせたのにか?」

アンナ「やり始めてもすーぐバテそうじゃん!男が息も絶え絶えで、ボール追いかけたりするの幻滅するから見たくないし?」

 荘輔「お、俺だって、言ってなかったけどこう見えても高校・大学ってサッカーやってたんだかんな?

    今はその、何ていうか。そぎ落としてない余分なモノが付いてるっつーか?これから秋・冬と冬眠に備えて身体を大きく

    しとかないといけねぇしさ!…なぁんちゃって……」

アンナ「きも」

 荘輔「おい刺さる。凄い刺さるからその一言。鋭利なんだよ会った瞬間からよォ…」

アンナ「……、おい」

 荘輔「あ?今度はなんだ」

アンナ「また来んの?ココ」

 荘輔「さぁ~な。あ、なに、さては、寂しくなっちゃいました?」

アンナ「そんなわけねぇだろ…そろそろシメるぞおまえ…」

 荘輔「もうよしなって。その強がり。そんなに肩肘張って、自分を隠そう隠そう!って、無理ばっかしなくても良いのにさ」

アンナ「……」

 荘輔「無理すんなって言ってんの。アンナはアンナ。俺は俺。だけどまぁ、気楽に行こうよ、俺みたいに」

アンナ「友情の証、交わしたしね」

 荘輔「おう」

アンナ「って素直に済むと思ったかよ!ふふっ。さ、止め止め!そうすけさ、チャリだっけ?ニケツでオレん家近くまで送り頼める?」

 荘輔「…可愛くねぇなぁほんっとによ~。警察見つかったら怒られんだかんな?」

アンナ「わかってますよーだ!…ワタシだって、そこまで馬鹿じゃないから」

 荘輔「…ワタシ?」

アンナ「あっ…!いや…その……」

 荘輔「それ、照れって言うんだぜ」

アンナ「し、知ってるわ!そん位!舐めてんのかよっ!」

 荘輔「ま、いいや。またココに来なよ。今度会った時、ちゃんとサッカー教えてやるよ。アンナに良い恰好させてらんねぇしさっ。

    それに、次会う時までに体力付けとくからさ!散々コケにしてくれたお返し」

アンナ「なぁ、そうすけ」

 荘輔「は?」

アンナ「明日。明日じゃ、ダメかなっ?……リフティングできるようになりたい!」

 荘輔「リ、リフティング?ああーまぁ、力いっぱい蹴る事しか知らなかったアンナには、ちぃと敷居が高いかもしんねぇけどなー。

    …はぁ。つうか帰るは帰るでも、まーたあっちの方まで歩いて行かないとチャリまで辿り着かねぇじゃんかよー」

アンナ「で!?明日どうなの?来る?…来てくれないの?」

 荘輔「明日。23時頃。またここで会おう。…"カラフルな迷路" でな」

アンナ「うん!…ここまで距離だいぶあるから迷うんじゃねぇぞっ」

 荘輔「道なりはもう覚えたしなっ!…迷わないよ。…俺はもう、迷わねぇよ」

​終わり。

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