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糾縄の血 本篇

​第二章 黒とクロ

≪ 登 場 人 物

 

配 役【♂4:♀1】※または【♂3:♀1】…♂1名を兼役でお願い致します。

​▦  里見 京介 / サトミ キョウスケ ♂

摩第二高等学校在学中、日々喧嘩と暴力沙汰に明け暮れ、群れを成さずたった独りで集団を腕っ節だけで圧倒し、蘇摩町にその悪名を轟かせたチンピラ界隈では伝説となっている通称 "二高の狼"。

​自主退学後、路頭に迷った挙句、麗香の居る高級クラブ「CLUB en rêve」で "黒服”として勤務している。

CLUB en rêve(アン・レーヴ)」と呼称します。

▦ 葛城 秀典 / カツラギ ヒデノリ ♂

関東最大の歓楽街・蘇摩町を裏で牛耳る広域指定暴力団「龍仁會」系葛城組の組長。極道者。

元からの腕っ節とその素質を見抜き、自分と同じ道に里見京介を誘(いざな)った張本人でもある。

飄々としており、酒と女には目が無い性格。

▦ 西方 蓮司 / ニシカタ レンジ ♂

若くして葛城秀典が組長を務める葛城組において、若頭補佐を務めている。
頭が良く、洞察力に優れる天才肌の極道。右眼上の傷痕と、組内で唯一の染髪頭(金髪)で短髪がトレードマーク。

ひょんな会話が経緯となり、葛城直々に、里見の教育係として任命される事となる。

▦ 佐沼 幹久 / サヌマ ミキヒサ ♂ ※葛城 秀典役と兼務でも可。

蘇摩町南西部・夕日通りの路地裏にて風俗店「ANGEL DOLL」を経営している店長。

葛城組の管理下における土地内で営んでいる都合もあり、秘密裏にみかじめを納めている。西方とは顔馴染み。

眼鏡に薄い頭、気弱で華奢な面持ち故か、キャストにも大きい顔をされがち。​

 

▦   ユ イ  /

風俗店「ANGEL DOLL」に所属するキャスト。身長158cm。上から83・60・80。

ぶりっ子で甘え上手な接客態度で店内No.1の地位築く傍ら、納得がいかない事があると口悪くなるのがキズ。

最近の店内の流行りでメイクを濃くしたらしい。

   この作品はフィクションです。

実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

里見「あの。極道、ってその…何をするんですか。俺今からどうなるんですか?どこに行くんですか?」

葛城「……」

里見「…あの!葛城さ」

葛城「(遮るようにドスの効いた声でゆっくりと)チビってんのか?」

里見「う…い、いや、そういう訳じゃ」

葛城「お前はもう戻れねぇ道歩ってんだ。黙って歩けや。…………ん。ほれ、迎えだ」

 

―ナンバー[12 25] 黒塗りのセダンが到着―

 

西方「お疲れ様です!親父。ビックリしましたよ。俺だけ急に招集だなんて。いや~事故で道塞がっちゃってて…ん?そいつは?」

葛城「お前よぉ西方。まだ車に乗ってもいねぇってのに、冷てぇ秋の夜風に晒しながら、俺に世間話させんのか?」

西方「失礼しました。おい。…お前も乗るんだろ?早く乗りなよ。…事務所、向かいます」

里見「あ、ちょっと何するんすか!イッテ!!イテテテテ…!」

 

―車内。沈黙が暫く支配する―

 

葛城「ん。(煙草に火を貰う仕草)」

里見「……えっ。あ、えっと。火種…火種……どうぞ(差し出す)

葛城「(煙を吐きながら)伊達に”黒服”じゃねぇってか。ははっ、暖房も付いてねぇこの車とは、気遣いが違うな」

西方「勘弁してくださいよ。にしても、親父自らカタギ連れ出すなんて。何しでかしたんですか?こいつ」

葛城「………何、餓死寸前の狼くんを保護してやったってトコだ」

西方「ふむ。狼くんを ”保護”って事は、"可愛がるあまり、庇って取り計らった”、って認識で良いんですね」

葛城「腹の探り合いは止せ」

西方「……あ、そうだ。名前、何て言うの?キミ」

里見「里見、京介です」

西方「(口笛を吹く)なーるほどっ。そゆこと。"狼くんを保護”って、そういう事ですか?親父」

葛城「そういう事だ」

西方「数年前に、同じ学区の兄ちゃん達に、アガリを指示してた根っこのチンピラ含めてざっと61人。

   たった独りで相手して半殺し状態。人のツラ殴ってるってのにそいつは、つめてぇ眼しながら返り血浴びて、

   顔面は真っ赤っ赤。虫の息でそいつは生還したらしい。武器だの刃物だの持ってる相手に素手で、だ。

   淡々と打ち負かしていくのを見た中の一人が、搬送先の病院で"狼みたいな目をしてた"って震えながら語ったそうだ」

里見「こっち見ながら言わないでくださいよ」

西方「でもそこから改まって更生した"黒服のボーイくん”が、これまたどうして親父にひょこひょこ着いて来たんだか。

   ボーイのままでも充分生きていけるでしょうに」

葛城「好き勝手散々暴れた過去を払拭したい、だから”何となく”ボーイになってみた……

   で。俺に火に油を注がれた勢いのままに、ただ"何となく”極道になってみたい……んなところだろう」

西方「成る程、軽い」

葛城「なぁ、里見よ」

里見「…はい」

葛城「おめぇは、今俺がこの西方を、この拳銃(チャカ)で殺せと言ったら、”何となく”で殺(や)れるか?」

里見「…な、む!無理に決まってるじゃないですか!人殺しになっちゃいますよ!!」

西方「バァン。はい。お前。アウト」

里見「え?」

葛城「一端の黒服に何となくなるのと、その道に何となく染まるってのは、似ているようで全然違う」

西方「特に後者は、何となくじゃ済まされない。里見、だっけ? 今はまだカタギの身分だ、悪い事は言わないから止めときなよ。

   お前合わないよ、こういうオシゴト。」

葛城「馬鹿野郎。会ったばっかりのおめぇが匙投げてどうすんだ?これからの飼い主様だってのに」

西方「すいません。……、ん。え。あれ、親父?よしてくださいよ、何の冗談ですか?」

葛城「あんだよ。別に変な事言ってねぇだろうが」

西方「ちょ、勘弁、してくださいよ…。道理でわざわざ俺を呼び付けて、こんな下っ端ドライバーさせると思ったら…

   心の準備ってモンがあるでしょうに」

葛城「嘘つけ。お前ならココまでお見通しだろうと踏んだまでだ。…まぁその話はさておいて、だ。でー、どうだ。例の件は。

   足元くらいは照らせたんだろうな?」

西方「え、ああ、例の県議会議員。最近になって、例の高級クラブに足を運ぶ回数が多くなってました…同時に、

   諌山組(やつら)の下っ端の徘徊も後を絶ちませんね」

里見「県…議会議員…、高級クラブ…?それって…まさか」

葛城「速見 正隆と言う男について、まずお前が知ってる事。全部吐いてもらうぞ、里見。」

里見「……それを俺が知っていたとしたら…話をしたとしたら…どうなるんですか、あの方は…」

西方「ふふっ。あのさぁ、里見クンってガキん頃…テストの解答最初っから、見ちゃうタイプだったっしょ?」

里見「テストは、寝てました」

西方「はぁ?」

葛城「ぷっ。はっはっは!おうしわーった!…話は後だ、こっから先は、一般ピーポーのお前が知る必要はねぇ。それに、

   シラフでする話でもねぇ」

西方「親父。お言葉ですが、早いところ、盃交わしちゃったら良いんじゃないですか?コイツと。…って言わなくても、

   いずれはするつもりなんでしょうが」

里見「はぁ。もう散々連れまわされちゃ、呑んだくれての日々だったんすよ?…また葛城さんと呑むんですか?」

葛城「なーーに、これからなげぇ付き合いになるんだ。”呑み直す”だけだよ」

西方「その酒を呑んだ後で、いきなり”酔いが冷めない”と良いんですけどね」

里見「酒は、これでも強い方なんすよ!・・・ガキの頃から、飲んでたんで。だ、ダメな事っすけど!」

西方「...ふっ。笑かしてくれるじゃん。この真っすぐなカンジ。親父が好む訳だな~。でも。いつまで、夢心地で居られるか...ふっ」

 

(葛城の携帯が着信。ポケットの中でバイブレーションの音が微かに聴こえる)

 

里見「…、葛城さん?葛城さん、お電話が」

葛城「(遮るように)今度はしっかり気付いてるよ。ったーく、めざといやつだな。はいはいはいはい、今出ますよーっと。

   …俺だ。………ああ、……ああ…」

 

(以下より、里見役の演者様は、内緒話のトーンで演じてください)

 

里見「あ、あの。すいません、に、西方さん、でしたっけ?」

西方「お。そうだ。まだ名乗ってなかったっけ、俺。西方。西方 蓮司。お前の飼い主になる…」

里見「か、飼い主ですか?」

西方「の!!!…予定」

葛城「おい煩ぇぞ」

里見「すいません!…はぁ、いきなり大声出さないでくださいよ、…電話してるんすから」

西方「ところでさ」

里見「………え?」

西方「なんで、極道になんかなろうと思ったわけ?本当に、何となく、なわけじゃないでしょ?」

 

(以下より、里見役の演者様は、内緒話のトーン終了)

 

里見「過去を、洗いたいから…いや、散々暴れ回ったりした過去が活きる道があるなら…。いや、違う…えっと……」

西方「……」

里見「俺馬鹿なんで、あんまし上手く言えないんですけど、こういうの。…今、隣に座ってるこの人が、

   オヤジみたいに見えたから…ですかね。オヤジはいないんで分かんないっすけど。いきなり出会って、

   何か知らないっすけどエラい絡まれて…。しかも話進んでったらヤクザで、いきなり突拍子もなく”俺に着いてくるか?"

   とか…言って来て…。でも…なんか、つい返事しちゃったっていうか。この人だったら大丈夫!みたいな…雰囲気に、

   飲み込まれたっていうか…。あ、すいません上手く言えなくて…」

西方「成る程。お前さては、アホだろ」

里見「え、喋らせといてそりゃ無いですよ…」

西方「でも。今のお前に今後も役に立つことを教えておいてやる。これは、お前がカタギだろうが、極道だろうが関係ねぇ事だ。

   自分で感じた直感を信じる事ってのは、その時中身が無くても、生きてりゃ良くも悪くも、殆ど後で伴わせる事が出来ちまう

   もんだよ。お前の良さでも、短所でもあるその性格を、どう生かすかはお前次第だ。でも。お前はほんの少しだけ…

   自分の心と、直感を信じてやっても良いんじゃねぇかな」

里見「は、はい」

西方「ははっ。シラフでクサい事、言うもんじゃねぇや。自分で鳥肌立っちゃったよ」

葛城「…ああ、……ああ、すぐに向かわせる。(電話を切る)……ふぅ、おし、西方。車止めろ」

西方「え?親父、組の事務所はまだ」

葛城「おい。俺は止めろって言ったんだ。親が止めろって言ったんだよ。止めろや」

西方「は、はい。承知しました」

里見「(…凄い、なんだ、今一瞬…凄い威圧感だった……)」

葛城「あい、運チャンご苦労さん。じゃ、引き続き2人で仲良く、夜のドライブ愉しんでくれや。俺は野暮用が出来た。歩いて帰る。

   あと、コレ。(西方にメモを渡す)お前みたいな立場の人間に頼むモンでもないが、寄り道と子守がてらに一丁頼まれてくれ」

西方「"ANGEL DOLL"…、ああ、成る程。了解しました、親父。きっちり、回収してきます。独り道、お気をつけて」

 

片手を気だるげに上げながら、無言で町の群衆へと消えていく葛城―

 

―再び、車内―

西方「さーて。里見クン。二人きりになったし、俺とオトナの御遊びドコロ。行こうか」

里見「…西方さんって、ゲイなんですか?」

西方「アホ!んな訳ねぇだろ!お前とちゅー出来るかっつーんだよ、ったく。今から俺達のお仕事をしに行くんだよ。

   本来カタギのお前を、こっちに首突っ込ませるのは筋じゃねぇんだがな。"特別に"、職場体験学習ってところだな。

   蘇摩町の南西…、夕日通り路地裏にある…、とある風俗店に向かう」

里見「なぁんだ…、オトナのお勉強しに行くって事かぁ…!女の子…か…西方さんも、それならそうって言ってくれれば…!」

西方「うん。何を勘違いしてるか知らねぇし、ニヤケ面してるとこ申し訳ないけど、違うな」

里見「違うんすか…?ええっ、でも極道の人が…オトナの………御遊び、ドコ、ロ……(生唾を飲む)」

西方「いいーから黙って乗ってろ!」

 

―風俗店 ANGEL DOLL―

ユイ「あれ?ねぇ西方さん?わー!西方さんじゃん!ねぇいつぶり?ねぇねぇ!」

西方「お。ユイちゃん。久しぶりだね、元気してた? 見ない間にまーたメイク濃くなっちゃって。薄い方が良いな~俺は」

ユイ「ホントに~?じゃあ~…、指名してくれたら~、薄くしても良いよっ。西方さんの為にっ(腕を掴みながら)」

里見「(…ボウリングの……ボール…みてぇだ…)」

ユイ「あ~!え、な~に?今ユイのコ~コ、見てたでしょ。ね~ね~。おっぱい。み・て・た・で・しょ?」

里見「え!あ、はい。んと、見せていただきました!」

西方「なーに畏まってんだ、お前。あ~ところでユイちゃんさ、店長さん居る?」

ユイ「店長はー裏でタバコ休憩してるー、そんなのさ?置いといて。ねぇ…いつシてくれるの…?ユイあれから待ってるんだよっ?」

佐沼「ゴホン!うちの店は本番禁止だって分かってるでしょう?ユイちゃん。…あ、これはこれは、西方さん」

ユイ「げー!もう戻ってきたし~!100本位吸ってくればいいのにさ~、せっかく西方さんと会えたのに…んも~」

   じゃあまたね西方さんっ。そっちの"初心者"さんもっ。御指名、待ってるからねっ?」

里見「はい!!!!!」

西方「うおっ…おまっ、今日イチ声出たな。さて、店長さん。いつものを戴きに来ましたって言ったら図々しいんですが、

   その後、変わりありませんか?変な客が来たりとか…逆に、ウチのもんもヘマこいたりしてませんかね」

佐沼「この町、いやいや、日本の裏を牛耳ってる龍仁會さんの事を匂わせるだけで、綺麗サッパリ無くなりましてね。

   以前は自身のひ弱さも相まって、やれ本番行為だ、ウチの店が伸びて来たと思ったら、店の外観まで

   似せた店が突然近所に開店したりとやられ放題でしたが…葛城組のおかげ様様ですよ」

西方「とんでもない。お互い、これからも穏便に」

佐沼「ええ。それで、そちらの方は…?」

西方「ああ、コイツですか?俺の友人で里見って言います。ユイちゃん、お気に召してる様なので、よしなにお願いしますよ」

佐沼「はははっ、勿論です。里見さん、ですね、覚えておきます」

西方「ええ、では。…おい。ずらかるぞ」

里見「あ、はい!では、失礼します!俺も、あとでボウリングしに来ますんで!」

佐沼「あっはっはっはっは!いつでも"転がしに”来てくださいよ!ウチは大歓迎ですから!」

 

―蘇摩町 夕日通り―

 

里見「用心棒、代…」

西方「みかじめ、って言ってな。諸説言い方は様々だが、カスリ、なんていう人間もいる。お前に分かり易く言うと、ヤクザは

   色んな業務形態っつーのがあってな。ここ夕日通り沿いのパチンコ、ホストクラブ、そして、この店もそうだが、おおかた

   ウチの葛城組の管轄下、つまり縄張り(シマ)ってところだ。そうだな、ワンちゃんと同じだ。人の縄張りで小便垂れたきゃ、

   垂らさせてやる代わりにお金をお支払い下さい。…そういうこった」

里見「成る程…、そっか。本番行為って確か、法律だかで、しちゃいけない事ですもんね…」

西方「ああ。あの店側も、本番行為を強要する迷惑な客に対して、"じゃあオマワリさん"とは出来ねぇんだ。そこで俺達の出番。

   店側も月々決まった額をこちらに納めていさえすりゃ、事を荒立てず、表沙汰にはならなくて済むって寸法だ」

里見「なんか、男女ってめんどくさいっすよね。あーあ、エロなんて無くなれば良いのに」

西方「おお?"転がしに"行きたいヤツが何寝言言ってんだ。さ。社会見学終了だ、今後の事は事務所で詳しく話はする。早く乗んな」

里見「(いよいよ…事務所、か)​」

 

―風俗店 ANGEL DOLL―

 

ユイ「…帰った?かな」

佐沼「ふぃー、毎月よくもまぁネチネチ回収しに来るもんだ。まさか葛城組の若頭補佐ともあろう方が、直々に足運びに来るとは…

   予想外と言えばそれまでだけども…ヒヤッヒヤだったね…」

ユイ「ええっ!あの人ヤクザなの?なんかおかしいと思ったんだよな~、昔からあの人お金いっぱい持ってたし。

   てかさ?確かに店回りの治安は良くなったけどさぁ。でも、そこだけじゃねぇしっつ~かさー、なんか複雑だよねー」

佐沼「客足も随分減った事は事実、だよね…そりゃおっかない人相の人達が出入りしてるんだ…、一般客も何だろうってなるさ。

   噂も良くも悪くも独り歩きするんだ。キャストの前で言うもんじゃないけど、ずっと売り上げは右肩下がりだよ…」

ユイ「(携帯に着信が入る)…お?御指名かなっ…あ。いっけな~い。ちょっとまた外すねっ、店長」

佐沼「え、ああ。香奈ちゃんも、あ、こりゃ失礼。ユイちゃんも休憩取り過ぎないように!あと!無理だけはしない!いいね!」

ユイ「ちょっ!本名で呼ぶなし。つうか休ませてーのかどっちなんだか分かんねぇし。店長も弱音ばっか吐いたついでに、

   ストレスで胃とかやられないようにね~!頭皮も労わってあげて~!…さてっと」

 

ユイ「もしもし~?もしもし~?…ああ。パパ?な~んだ。で、何の用?つうか非通知でかけてくるとか何事?

   うん。ん?何、ちょっと良く聴こえねぇんだけどっ!?……はぁ!?

   ああ、うん。え、ああ、たまたまかもだけどさっき来たよ、西方って人。それが…どうかした?」

                                                      

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