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​辺鄙噺-後編-

≪ 登 場 人 物

 

配 役【♂4:♀1】

​▦  空 木 / ウツギ ♂ 

※声のイメージ:20代後半~30代前半

麓で小さな本屋を営む。本好きが高じて自身でも執筆業モドキを行うが世に出すつもりが無い。

好奇心の儘に動いてしまう節があり、度々梓には「自由人」と呆れられている。

▦ 梓  / アズサ ♀ 

※声のイメージ:10代後半~20代中頃

空木の営む本屋で住み込みで働いている女性。住み込むに至った経緯は明らかではない。

空木の事を「先生」と呼ぶ。大雑把な空木とは違い、生真面目な性格。猫の前では女の子らしい一面も。

▦ 永 月 / ナガツキ ♂

創作亭遊庵の発起人。名前は「ハヂメ」というらしい。

物腰が柔らかく好奇心旺盛な性格。時折子供のような一面を覗かせることもある。

身内の仲間はあだ名で呼び、高槻は「つーさん」、 小鳥遊は「アキちゃん」と呼んでいる様子。

▦ 高 槻 / タカツキ ♂

創作亭遊庵に住み込む絵描き。名前は「ヤマイ」というらしい。

大の猫好きで、庵の周りに居着く野良猫へ勝手に餌付けをしており、彼の周りには常に数匹猫が着いて回る。

非常におっとりとした性格で、その存在は癒しそのもの。余談だが、恐がりなのに恐い物が好き。

▦ 小 鳥 遊 / タカナシ ♂

遊庵に住まう住人。赤い髪にピアスという、派手な見た目で常に煙草を咥えている厳つさはあるものの、
遊庵の縁下の力持ちとして尽力している。

空木 「そういえば、永月さん。物書きだけをやられている訳では無い、と仰っていましたが…」

永月 「えぇ。物書きは勿論なんですが僕は元々芝居が好きでして」

 

空木 「ほう、お芝居」

 

 梓 「お芝居というと、大衆演劇か何かを?」

永月 「勿論、そういったものも好きですが、我々は姿を見せない芝居、といいますか」

 梓 「姿を見せない……、?」

小鳥遊 「ふぁあ……(欠伸)まぁた回りくどい言い方して困ってんじゃん客が」

永月 「あれ、起きてたの?」

空木 「彼は……?」

永月 「彼がもう1人の遊庵の住人、小鳥遊アキです」

小鳥遊 「…くぁー」

 梓 「…随分と欠伸ばかりされていますが、お疲れなんですか?」

永月 「彼は超がつくほどの夜型人間でして。アキちゃん、今起きたの?」

 

小鳥遊 「あー……昨日帰ってきてから寝ずにゲームしてて、それで。ふぁぁ……」

 

 梓 「ゲーム……心配して損した」

永月 「あはは、けど彼は優秀ですよ。文字書きも絵描きも演じ手も担ってますから」

空木 「姿を見せない演じ手、というのは」

 

永月 「僕達は“声だけ”の芝居をしているんです」

 

小鳥遊 「まぁ、元々趣味でそういう事をしてたんだよな俺とハヂメさんは」

 

空木 「声だけの芝居…ほほう、それはまた興味深い」

 

永月 「姿を見せず、動きを見せず、声だけで人の感情や動き、様々な物を《表現》していく。その楽しさに魅入られましてね。

    その延長線上で物語を紡いでみたい、と思った次第なわけです」

 

小鳥遊 「声だけなら、時間さえ合えば何処(どこ)でだって気軽に表現することが出来るからな。……つーか、この人たち誰?」

 

 梓 「…今更!?」

永月 「アキちゃんは少々マイペースな所がありまして(笑)」

小鳥遊 「ハヂメさんにだけは言われたくねぇなそれ」

空木 「僕は空木、この山の麓で小さな本屋を営んでいます。そしてこの子は梓、うちの従業員です」

 梓 「…宜しくお願いします」

小鳥遊 「どーも、……あ、なぁハヂメさん煙草無い?」

永月 「僕煙草は吸わないから持ってるわけないでしょう?」

小鳥遊 「だよなぁ……部屋行って取ってくるわ」

高槻 「あ、アキさんみつけた!どこ行ってたんですか、もー」

小鳥遊 「んぁ、高槻さんおはよー。…あれ、探されてた?」

高槻 「探しましたよー、お客様が来てたので」

 

小鳥遊 「あー、空木サン?」

 

高槻 「あれ、会いました?」

 

小鳥遊 「うん、ハヂメさんと居たから。さらっと紹介はされたけど」

高槻 「そっか、じゃあ……いいのかな。部屋戻ります?」

 

小鳥遊 「んや、煙草取りに来ただけ。流石に客来てて2度寝すんのもアレだし、広間行こうかなーとは」

 

高槻 「じゃあ僕も行こうかな。多分ハヂメさん達もそろそろ来ると思うし」

小鳥遊 「んじゃあ、もてなす準備でもしとくか」

 

高槻 「あ、ご飯用意するよ」

 

小鳥遊 「俺も手伝う」

 

高槻 「うんっありがとー」

 

 梓 「小鳥遊さんを引っ張った、っていうのは?」

永月 「先程彼も言っていたでしょう?僕とアキちゃんは元々趣味で声だけの芝居をしていて、その繋がりで出逢ったんですけど、

     まぁ中々ウマがあってしまって」

空木 「やはり共通の趣味を持つからこそ、という感じですか?」

 

永月 「それもあるかもしれません。けど、彼とはなんて言うんですかね…そういうのがなくても通じるものがあるというか…

     こう、似てるんですよ考えることが」

 梓 「見た感じは、結構真反対なように思えましたけどね。永月さんはこう、なんというか真面目そう、、というか」

 

永月 「あっはははは!確かにアキちゃん見た目は厳ついですからね、髪は赤いしピアスは多いし第一印象だけだと怖いって言われると

     よく言ってますよ」

 

小鳥遊  「まぁそんなハヂメさんも真面目そうなだけで真面目じゃあねぇけどな」

 

空木 「小鳥遊さん、それに高槻さんも先程ぶりです。……そうなんですか?」

永月 「しっつれいな、僕ほどの好青年他に居ないでしょう」

 梓 「自分で言っちゃうんですね」

 

小鳥遊 「そう、自分で言っちゃうんだよこの人。そういう所だよなぁ、高槻さん」

 

高槻 「そう?僕はハヂメさんもアキさんも好青年だと思うけどなぁ」

 

永月 「ほらぁ!つーさんもそう言ってくれてるじゃない!」

 

小鳥遊 「はいはい…」

空木 「皆さん仲が良いんですね」

 

小鳥遊 「これで、遊庵はまだ発足から1ヶ月ちょいって言うね」

 梓 「え、まだそんなに短いんですか?」

 

高槻 「そうですよ、僕とハヂメさんは少し交友があったんですけど…夏前かな?アキさんと会ったのは」

 

小鳥遊 「そうそう、むしろハヂメさんとの初対面もむしろ夏前」

 

空木 「そんなに短いようには思えない程の…」

 

永月 「そうなんですよ、意外だとよく言われます。けれど、過ごした時間は短くたってこうして同じ志を持った事で集まれた。

     この奇蹟(きせき)って、面白いと思いません?」

 

空木 「奇蹟か……確かに、人の出会いは一期一会、その出会いがどうなるかなんてその時は誰にも分からないものですからね」

 

永月 「そう、そうやって出会い僕達は今こうして1つの奇蹟を生み出した。空木さんと梓さんも、そうじゃありませんか?」

 

 梓 「…たしかに。私も先生と出逢ったころは、まさか先生の所でこうしてお世話になるだなんて思ってもみませんでしたから」

空木 「ひとだけじゃない、場所も物にだって出逢いはある。商売をしていると常々実感することですね」

永月 「そしてね…僕はこうも思うんですよ。僕達3人の出逢い、空木さんと梓さんの出逢い…2つの奇蹟は今実を結んでいる、と」

 梓 「……?」

空木 「…ふむ、」

高槻 「ふふ」

 

 梓 「…先生も高槻さんも、分かってるんですか?」

小鳥遊 「こういう言い回し、ハヂメさんの癖だよなホント。ちゃんと言えっての」

 梓 「え、え?小鳥遊さんも…?」

空木 「梓はまだ若いからね」

 梓 「若いから、分からないものだとでも?」

小鳥遊 「分からないっつーか、まだそんな風には感じないだけかもな」

永月 「アキちゃんこそ、回りくどくなぁい?」

小鳥遊 「うっせ、ハヂメさんよりマシ」

高槻 「ハヂメさんは僕達と梓さん達の出逢いもきっと何かがあるって思ってるんですよ」

永月 「…つーさん、全部言っちゃった」

高槻 「えっ、あ、ダメでした、か…」

小鳥遊 「ダメじゃねぇよ、ハヂメさんだともうしばらく答え引っ張って梓ちゃん混乱させてたぜ?」

永月 「なっ、そ…そんな事ないしぃ!?」

 梓 「…本当に何かがあるんですかね、先生」

 

空木 「どうだろうね。けれど、出逢った事で僕達は誰しもが新しい扉が開いたんだと思うよ。僕は、彼らに出逢ってまた物語を書きたい

     と思えたし」

 

 梓 「先生にとっては、プラスになっていてもですね…」

 

空木 「きっと梓にも影響はあるさ。それが良いか悪いかはまだ分からないけれどね」

 

高槻 「周りを上手く巻き込んでくれるというか…僕とアキさんを出逢わせてくれたのは間違いなくハヂメさんだからかな。

     ハヂメさんが『楽しい事になる』って言うと本当にそうなる気がするんだよね、僕」

 

小鳥遊 「それな。言霊っつーか、意地っつーか」

 

空木 「そんな永月さんだからこそ、お二人も一緒に楽しくやれている、という感じですか?」

 

小鳥遊 「俺達が楽しまなきゃ、他に誰が楽しいと思うんだ、っつー感じ?」

 

永月 「そう、楽しむ事が大前提であるからこそどんな出逢いもどんな経験も何かに生かせると思っています。繋いだ縁(えにし)を

     無駄にするのは勿体ないでしょう?だから僕は…お二人の事も 巻き込むつもりで居ますよ」

 

小鳥遊 「わー、すっげー悪い顔してる」

 

高槻 「ふふ、ハヂメさん楽しそう」

 

空木 「…だってよ、梓」

 

 梓  「先生が暴走しそうな時は、私が引っぱたいてでも止めますからね」

永月 「おや、ということは巻き込まれてくれますか?梓さんも」

 梓 「こんなに楽しそうな先生だけを放ってはおけませんから。…それに、私も皆さんとの出逢いで何かを得られるのなら……

    得てみたいと思いました」

 

小鳥遊 「じゃあハヂメさんの暴走は俺らで止めようか」

 

高槻 「僕じゃ止まらないと思うから、その時はアキさん宜しくね」

 

小鳥遊 「…デスヨネー」

 梓 「許可を戴けるのであれば私が止めましょうか?」

 

空木 「梓の平手打ちは、結構ダメージが大きいんだよなぁ……」

 

永月 「痛いのは勘弁して下さい…僕結構か弱いんですよ」

 

小鳥遊 「よく言うわ」

 梓 「ふふ、……じゃあ止めるのは先生の暴走だけにしておきます」

空木 「僕なら良いという事でもないんだよ、梓……」

高槻 「そうだ、夕飯用意したんです。良かったらお二人も召し上がっていかれませんか?」

 梓 「え、良いんですか?」

高槻 「勿論!……というか、そうして欲しいなぁちょっと作り過ぎちゃって」

 

永月 「つーさんの料理、美味しいんですよ。是非是非」

 

空木 「それじゃあ、お言葉にまた甘えようか」

 

 梓 「…はいっ」

永月 「空木さん、宜しければ食事がてら貴方の作品についても僕達に聞かせて貰えますか?」

空木 「えぇ、勿論」

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